元自衛官インタビュー

自衛隊から危機管理の経験を活かした航空業界へのキャリア形成

元自衛官キャリアインタビュー Vol.17

プロフィール
わびさん(仮名)
現職:航空業界の外資系企業
自衛隊在職時最終役職:1等陸尉

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、わびさんの経歴を教えていただけますか。

わびさん:大学卒業後、一般幹部候補生学校から陸上自衛隊に入隊しました。幹部候補生学校卒業後、高射特科に配属され、途中情報科に職種変更しています。部隊歴は、高射特科大隊、師団司令部、方面総監部、最後に学校勤務を経て、1尉で退職しました。

退職後は、兵庫県の市役所で防災担当として勤務し、その後、再度転職、現在は航空業界の外資系企業で危機管理を担当しています。

ーー自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

わびさん:自衛隊に入隊した理由を聞かれたときは、いつも「人の役に立つ仕事がしたかった」と答えています。ただ、本当は当時大好きな女性がいましたが、思い実らず、それであれば、「近くで守れないなら、せめて遠くから守りたい」という思いで入隊しました。

高射特科配属時は、短SAM中隊で射撃小隊長と訓練幹部を兼務し、訓練のPDCAを回していました。

その後、情報科に職種を変え、師団司令部や総監部で情報業務に従事していました。秘密保全上、詳しくお伝えできませんが、部隊の行動に必要な情報資料を収集し、分析して、師団長や方面総監に報告するような仕事です。
退職前の学校勤務では、新たな教育課程を立ち上げ、師団司令部や方面総監部での情報業務を幹部や陸曹へ教育していました。

数々の災害派遣参加から学んだことを生かしたセカンドキャリア

ーーロマンチックな入隊動機ですね、また職種転換された情報科は今のお仕事に生きていそうですね。自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

わびさん:いろいろな思い出がありますが、ここで紹介したい思い出は2つです。

ひとつは幹部自衛官になったばかりの頃の思い出です。

幹部候補生学校で人の上に立つことを学んだとはいえ、いきなり数十名の部下をもつ小部隊の指揮官というのは、インパクトがありました。知識や経験は部下のほうが上。しかも、自分の親よりも年上の部下もいます。しかし、そのような環境で仕事をしてきたおかげで、マネジメントのスキルは身についたと思っています。

この時のマネジメントで特に意識していたのは、年齢だけでなく、知識や経験も陸曹が上でしたから、分からないことは素直に伝えて、正直な付き合いを心がけるようにしていました。

こうした意識により、信頼関係が生まれてお互いに敬意をはらうようになりました。幹部候補生学校では「小隊長たるもの」や「小隊長らしく」のように振る舞うような教育を受けましたが、結果的には役職、階級だけではなく、知識や経験を尊重した付き合いをして、信頼関係をつくることが良いと実感しました。

ふたつ目は、多くの災害派遣に参加したことです。災害派遣の回数は同期の中でもダントツで多かったです。宮崎県口蹄疫、東日本大震災、熊本地震などの災害派遣に参加しました。どの災害も悲惨な被害で強烈に記憶に残っています。

いずれの災害も悲惨な状況でしたが、同じくらい印象に残っているのは、自衛隊は如何なる状況でも組織として冷静に活動できることを身をもって経験したことです。

災害派遣というと、現場に目がいきがちですが、今まで経験したことのない災害でも、速やかに必要な情報を収集し、最も効率的な活動ができる計画を策定し、適時適切に実行できる自衛隊の組織的な強さを実感しました。

そのような中で多くの情報業務を経験しましたので、防災や危機管理の着眼、計画立案に関する知識を得て、今の仕事にも活用できています。

写真自衛隊


ーー災害派遣でかなり活躍されたんですね。そうした中、なぜ自衛隊から市役所、そして民間企業へ再就職されようと思ったのでしょうか。

わびさん:まず自衛隊から市役所への転職は、家庭の事情と健康上の理由です。家庭の事情は、子どもが生まれたことをきっかけに、転居を伴う異動を苦痛に感じるようになりました。健康上の理由は、メンタルダウンしたことです。再び同じ状況に陥った場合に耐えられる自信がなかったのです。

そこで、引越しを伴う転勤がなく、比較的穏やかに勤務できるであろう市役所に転職しようと思い、社会人経験者採用を行っていた自治体を受験し、転職しました。

また、市役所から民間企業への転職ですが、こちらは家庭の事情もありますが、挑戦です。私が勤めていた市役所は兵庫県の田舎で、のんびりと過ごすことができ、私自身は気に入っていました。しかし、妻はもう少し都会で子育てをしたいと意見が割れました。私も市役所での仕事に慣れていくにしたがって「もっと主体的に働きたい」と思うようになり、現在の会社に転職しました。

ーー「挑戦」に関して、民間企業の方が良さそうですね。今のお仕事で実現されたのでしょうか?

民間企業ですので、挑戦や変革には上司、役員共に非常に歓迎されました。やりたいと思うことと実利が重なれば、迅速に許可をいただけるため、着実に組織に貢献でき、私も成長していると実感しています。

特に自衛隊での危機管理の経験を今の会社では買ってもらっているため、そうした自分の専門性を十分に発揮できています。

ーー良かったですね。ちなみに再就職時の就職情報収集、スケジュール、準備等必要だったと思います。どのような準備をされましたか。

わびさん:自衛隊から市役所へ転職する際の情報収集やスケジュール、準備は簡単でした。受験したい市役所のHPにほとんど記載されています。その内容に従って、計画的に準備するだけです。

市役所から民間企業への転職活動は約3週間で終わりました。特に何の準備もしていませんし、スケジュールに困ったこともありませんでした。

転職では苦労しなかった理由は、自衛隊の勤務で培った知識と経験のおかげだと思っていますが、後ほど詳しく説明したいと思います。

転職の進め方のお勧めは、家族がいる場合は、できるだけ、在職中に転職活動を行うことだと思います。無職で転職活動をすると無収入で不安になり、よく分からないところへ就職してしまったりするからです。

目標は危機管理専門家として今後のキャリアを歩むこと

ーー在職中に再就職先決めるのは重要ですよね。現在の会社では、どのようなお仕事をされていますか。ご自身の今後のキャリアをお聞かせください。

わびさん:現在は航空業界のとある企業で危機管理の仕事をしています。具体的にはBCP(事業継続計画)の策定・改訂、BCPに基づく訓練のPDCAです。

さらに現在は新型コロナウイルス感染症の対応も行っていますが、自衛隊での仕事とあまり変わりません。しかも、統合幕僚監部や陸上幕僚監部など自衛官と仕事をしたこともあります。自衛隊で培ってきた知識やスキルをうまく生かせていると思います。

今後のキャリアについては、まだ漠然としています。私は生粋の防災・危機管理屋なので、基本的にはこの分野で突き抜けようと考えています。ただ、防災・危機管理とは言っても、色々な働き方があると思っています。これからも勉強を続けて、新しい働き方を模索しているところです。

再現性をもった自己アピールをしましょう

ーーわびさんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

わびさん:現在の会社で高く評価してもらっている能力は、企画立案、合意形成、ファシリテートだと思っています。

これらの能力は、幕僚としての勤務で培われましたまた、職種の特性上、作戦・戦闘のことばかりではなく、数多くの業務に従事し、他の機関・企業の方とも接点があったので、色々な知識と経験を身につけることができましたと考えています。

先ほどの転職活動の話に戻りますが、私は自衛隊での勤務で得た知識と経験のおかげで、苦労することなく転職できたと思っています。ただ、転職の面接では知識や経験、実績を述べるだけでなく、

再現性を伝えること

が必要になってきます。ここまでできるようになれば、働く上での最強の武器を手にしたと言っても過言ではありません。

再現性についてですが、ポイントは、資格とか知識を一方通行で伝えるのではなく、自分の実績をあなたの会社でこのように生かせて、貢献できますと伝えることだと思っています。

応募企業では採用するにあたり、採用に至る課題があるはずです。その課題に対して、自分であればこのように解決できると具体的に伝えると、先方も入社後の活躍のイメージが湧きますよね。そうした意味で、再現性と言っています。

課題の見つけ方は、求人票からヒントを得てくださいこんな人が欲しいといった情報やその会社や業界が関連するニュース、組織の上層部が言っていることなどから、会社がどの方向に進んでいるのかがわかりますので、そこから課題を推測してみると良いと思います。

再就職、転職をする自衛官に向けてのアドバイス

ーーこれから再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

わびさん:自衛隊で培った知識と経験は、市役所や現在の会社でも十分に通用しています。このことを現役の自衛官の方々に広く知っていただき、退職後のキャリアに関する悩みを少しでも解消できればと思っています。

また、自衛官は一般の人がなかなか教育されない立ち振る舞いや行動があります。清潔感であったり、時間厳守、チームワークといった点は元自衛官が当然にように備えている強みです。意外かもしれませんが、一般の人が日常生活で得るのは難しいものです。

そして、組織としての方向性を掴むことに優れていると感じます。組織が大きくても、小さくても組織体がどちらに向かって進んでいるのかを意識できることも大きな強みと感じます。

いずれの要素にしても自衛官であったことで、民間企業で生かせることはたくさんありますので、是非やりたいことを見つけて、チャレンジして欲しいと思います。

ありがとうございました。わびさんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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