元自衛官インタビュー

民間看護師から自衛隊への転職とその後のキャリアの作り方

元自衛官キャリアインタビュー Vol.16

プロフィール
大久保 美帆さん
現職:ブランディングトレーナー、病院・企業向け印象管理研修講師
自衛隊在職時最終役職:陸上自衛隊 2等陸尉

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、大久保さんの経歴を教えていただけますか。

大久保さん:看護師として新卒で大学病院に4年勤務した後、防衛省に転職しました。約10年間自衛隊で看護官として自衛隊中央病院に配属、途中総理大臣官邸内の緊急医療支援チームでの勤務などを経て、結婚を機に自衛隊を退職。

転職・起業活動における印象作りの戦略や消費者向けサービスの事業内容のブランディングサポート、プロバレーボールチーム「ヴィクトリーナ姫路」の立ち上げやブランディング・選手スタッフのブランドマネジメント、法人営業に従事。

「ヴィクトリーナ姫路」の立ち上げでは、初代監督が竹下佳江さん、眞鍋政義さんがジェネラルマネージャーとして就任し、一緒に働いていました。私は、チームがプロ化を進めていく中で、チームブランディングのサポートをし、最短でトップリーグに昇格するところまでをご一緒しました。

現在は、主に一般企業、病院職員向けの接遇・印象管理研修のプログラム構築・講師を行なっていたり、また、転職・起業の準備段階で必要な、「自分の強みを言語化して相手に伝わる見せ方」のサポートを行なっています。

病院研修は、航空会社のCAさんが行っているケースもありますが、必ずしも現場に即していないこともあり、そうした現場目線や現場に合わせた研修を看護師経験と自衛隊勤務の経験をもとに研修をしています。

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民間看護師から自衛隊への転職

ーー自衛隊時代は、緊急医療チームでも活躍されたんですね。では、自衛隊に入隊された背景や在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

大久保さん:看護師として新卒で大学病院に4年勤務していましたが、大学病院での勤務だけで無い経験も得たいと考えていました。

父の同級生が地方連絡部の仕事をしていた関係で、自衛隊別府病院の見学をする機会があり、自衛隊で看護の経験は通常なかなかできないことと、民間で経験のある看護師の公募枠があると知り、受験しました。

無事合格し、入隊後は自衛隊中央病院で看護官として内科系・外科系の病棟に勤務したのち、内閣府技官を兼任。総理大臣官邸内の緊急医療支援チームに配属され、官邸内での医務室業務、総理大臣の外遊や国内出張などの随行員として医療支援活動をしていました。

首相外遊同行や緊急医療チームでの経験

ーーインタビューの皆さまに聞いているんですが、自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

大久保さん:大学病院等民間組織ですでに社会人として生活していたため、自衛隊内での生活、自衛隊員としての振舞いや訓練など、すべてが自分の想像のはるか上で驚くことばかりでした。

それまでは大学病院で過ごす時間が大半だったので、大きな声を出すこともほとんどなかったのが、衛生学校での基本教練は、今まで出したこともないような大声で号令を出したり、他にも上官への報告の作法、時間の表現の仕方、一般社会では見聞きすることのない場面がたびたびあり、教育中面食らったことは今でも鮮明に覚えています。

衛生学校で教育を受けた後に正式入隊し、自衛隊中央病院に勤務しました。陸曹長として階級はスタートし、翌年に幹部に昇進。途中、総理大臣官邸内の緊急医療支援チームに配属された時には、かなり印象深い経験をさせてもらいました。

実は、首相が乗るための政府専用機は航空自衛隊が運用しており、そのため搭乗員はみんな自衛官なんです。客室乗務員も航空自衛官ですが、当時整備運行等の支援を担当していたJALへ研修に行き、民間のCAさんと同じような作法を習得して勤務しているんです。

スマートで細やかな気づかいが感じられる所作はとても居心地がよく、素晴らしかったです。

私は医療チームでしたが、首相外遊の同行時には政府専用機に、普段お茶の間で見ているニュース番組のアナウンサーの方がいらっしゃったり、テレビで見たことのある外国の首脳陣を、遠目ではありますが拝見する機会も多くありました。

そうした点で、各国の首脳陣の振る舞いやリーダーシップ等を間近に見たことも、その後のブランディングの仕事への興味関心に繋がっています。

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地道に活動をしていき、信頼関係を得ていったメイクセラピーの活動

ーー大変貴重な経験されていますね。それでは、転職に関してですが、なぜ自衛隊から民間企業へ転職されようと思ったのでしょうか。

大久保さん:結婚を機に退官しましたが、出産後にもう一度何か仕事をしたいと思うようになり、インターネットでさまざまな情報に触れるうちに『メイクセラピー』というワードに辿り着きました。

現在は、すでに検定にもなっている技術ですが、メンタルケアにも生かされているセラピーです。

専門家によると、心療内科でカウンセリングに何度も通いながらも、状況が変わらない女性に「なりたい自分」に見える外見=メイクアップをカウンセラーが施したところ、表情や言動、行動が変わり、カウンセリングでは起きなかった変化が驚くほど早く見られたそうです。

何人もの事例を通して、メイクアップによる外見の変化が及ぼす心理的影響により、行動変容を自ら起こすきっかけとなり、患者さんへの心身向上のケアとして大変有効な手段だと確信したそうです。

私自身も看護師時代に多くの女性のがん患者さんと接してきました。化学療法や放射線療法の副作用で頭髪や眉毛の脱毛が起きたり、外見が変わることでますます人前に出ることに抵抗を感じる患者さんは決して少なくなかったです。

もしもその時にこの技術を自分が持っていたら、もう少し違ったアプローチが出来たのではないかと思い、あとのことはよく考えずに勢いと情熱だけでスクールに通い始め、メイクセラピーに関わる仕事や啓発をしていました。

ーー患者さんの見た目ケアは大変重要ですね。一方で当時はまだ一般的で無かったのかと思いますが、どのように活動をされていたのでしょうか。

大久保さん:そうですね、たしかに当時メイクセラピーという言葉はまったくというほど知られておらず、インターネットでの検索でもヒットしませんでした。学んだスクールでも就職の斡旋はしておらず、個人で行動を起こすしかないのが現状でした。

まずは自分が子育て中に子どもと通っていた地域の子育て支援センターで、私のバックグラウンドをよく理解している保育士さんに、子育て中の母親向け講座の会場として協力いただけないかと相談し、開催しました。結果的に参加者からも大変評価してもらい、一度開催すると、行政の横のつながりで他の施設からも依頼がくるようになります。

また近隣の市からも依頼が入るようになり、行政と仕事をしている経験から、更に企業案件も紹介されることが増えてきました。

メイクセラピー以外にも、行政が後援する子育て期の母親のイベント運営を仕切ったり、横のつながりからさまざまなバックグラウンドをもつ方々と協業する機会にも恵まれましたし、組織に属さず働く方法などは、この時期に学べました。

最初は小さくはじめて、実績をつみあげていく過程でたくさんの方々のご紹介があって、今につながっています。

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看護師としての経験と自衛隊の経験を生かした病院向け研修を開発

ーー横のつながりを大事にすると、更に次のお仕事も依頼されるのですね。現在は、研修のお仕事をされているかと思いますが、お仕事やご自身の今後のキャリアをお聞かせください。

大久保さん:病院職員向けの接遇研修に力を入れています。病院では、企業の接遇研修で学ぶ内容が必ずしも適切ではなく、現場とのミスマッチを痛感している関係者が多い現状です。

たしかにお辞儀の角度や敬語の使い方といった形式的な接遇も大切ですが、健康になんらかの問題を抱える人は、その時にどんな援助や言葉がけが必要か、普段とは違った配慮が必要です。

看護師のキャリアのある講師が伝える接遇は、今後ますます病院をはじめとする医療の現場で必要になってくると確信しています。

こうしたこともメイクセラピーでの現場感がある経験を生かし、患者さんのニーズを大切にする印象を大事にするという形に変えて研修をしていますので、今後もよりそうした取り組みを強化していきたいと思っています。

自衛官が生かせる能力

ーーたしかに最も必要なのは患者さんに寄り添うことですね。そうしたキャリアを重ねている大久保さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

大久保さん:まず調整力があると思います。調整力はとても重要で、どんな職場でも活用できる能力です。自衛隊は任務を遂行する上でさまざまな部署間の調整があります。

大学病院の時は、小さな個人が他部署との調整をする機会が少なく、自らの与えられた仕事を着実にこなすことが求められ、部署の垣根を超えた仕事がそこまでありませんでした。

ただ、自衛隊は組織が大きく縦割りでもあるため、その調整に力が大変求められました。そうした調整力が、民間に行った際に調整する意識が根付いていることで、組織を円滑に進めるための仕事に役立っていると感じています。

このコロナ禍において、リモートワークがどれだけ活用されるようになっても、人と人のコミュニケーションがなくなるわけではありません。むしろ、齟齬が起きないようにお互いの認識にズレがないかを確認し合う作業は今まで以上に重要です。そのため、調整力は今まで以上に求められてくるのではないでしょうか。

あわせて、コミュニケーション能力も生かせると思います。自衛隊では、今まさに、現場に何が必要かを見極めたコミュニケーションへ力を入れること多かったです。

それにより組織が円滑に動き、とくに自分が当たり前と思っていたことや、経験を相手が持っているという認識にはしないように注意していました。そうしたことは円滑な組織運営が求められる自衛隊において、心がけている人が多かったように思います。

民間からの転職組だった私自身が自衛隊特有の専門用語や職務内容にとまどったのと同じように、退官後に新しいことをはじめるときには、わからないことは正直にわからないと言葉で示したり、自分の理解したことと相手が伝えたいことに相違がないかを確認する作業=調整力が、民間企業への転職後も信頼関係にもつながると考えます。

再就職、転職をする自衛官に向けてのアドバイス

ーーこれから再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

大久保さん:自衛隊特有の職務や思考があるのと同じように、一般企業にもそれぞれに企業理念や文化があります。

多くの人は、自分が過去に経験してきたことを基準に物事を考える傾向にあります。そのため、他者の意見を受け容れがたい気持ちにになることがしばしば起きます。

お互いの過去の経験や思想をぶつけ合うのではなく、良いものを生み出すには知見をどう活用すればよいかという視点をもつことが大切です。

また、私の得意分野になりますが、自分が発信する「私はこういう人です」という見せ方(話し方や振舞いを含めた外見づくり)を、相手にどんな印象を与えたいかによって変化させることで、コミュニケーションが格段にスムーズになります。

見せ方でまず意識して欲しいのは、「清潔感」です。清潔感は見た目の感じの良さだけでなく、「自己管理ができていそう」「誠実そう」などの、内面や能力のプラスの印象も相手に与えられます。

自衛官は文化的にアイロン掛け、靴磨き、ワックス等意識的に持ち合わせていることが多いと思いますが、見た目や着こなしが民間企業では違うことがあったり、独特な話し方、言い回しがあります。

長らく勤務していますので、それが定着しており、自分で気づくのが難しい場合もあります。自分自身を動画で撮ってみて、普段の自分を客観視してみるのもよいと思います。そうすることで、自分自身が気づかなかった自分の癖や言い回し、振舞い等を見返せますよね。

転職活動も大変ですが、新たな文化、場所に触れることは自分自身の成長に繋がります。自衛官だったことがよい方向に作用するキャリアを皆様が歩んでいけるよう、祈念しています。

ありがとうございました。大久保さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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