元自衛官インタビュー

自衛隊から新プロダクト開発マネージャーへのキャリアの作り方

元自衛官キャリアインタビュー Vol.20

プロフィール
後藤 孝之さん
現職:BionicM株式会社 ソフトウェア開発マネージャー
自衛隊在職時最終役職:海上自衛隊 機関科電機員(潜水艦) 海士

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、後藤さんの経歴を教えていただけますか。

後藤さん:2006年夏に海上自衛隊の任期制自衛官として入隊し、呉の護衛艦および潜水艦乗組員として勤務。その後2008年に退職しました。

退職後は、1年間職業訓練校に身を置きながら転職活動を進め、トヨタ系に納品するカーナビベンチャー、老舗オーディオメーカー、東大発AIベンチャーを経て、現在は同じく東大発のBionicM株式会社でソフトウェア開発マネージャーとして、人体の局所的アシストスーツとも言えるパワード義足の開発に従事しています。

ーーまず、自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

後藤さん:きっかけは就活フェアに参加した帰り道で、たまたま居合わせた地方連絡部の方からの勧誘で話を聞き、興味をもったことです。

もともとゲームが好きで、大学では情報工学を専攻しました。そのため、就職先もゲーム会社を志望し活動。ただ、自分自身の技術の伸び悩みや目指していたゲーム業界が訴訟合戦でビジネス色が強くなっていたこと、そして就職氷河期で、企業への就職に迷いがありました。そんな最中に声を掛けてもらったのが、自衛隊でした。

当時は陸海空の区別すらよく理解しておりませんでしたが、勧められるがまま海上自衛隊に応募し、任期制自衛官で入隊しました。とはいえ、入隊には勇気がいりましたが、阪神大震災での自衛隊による災害派遣と被災地支援活動や、家が警察家系だったことから自衛隊への親近感もありました。

入隊後は、舞鶴教育隊を経て、機関科電機員として呉のはつゆき型護衛艦に配属。その後、曹候補士に転籍、潜水艦訓練教育隊を経て同じく電機員としてはるしお型潜水艦に配属されました。

職務内容は、職種が機関科でしたので、エンジンやモーターなどの動力や配管周りのメンテナンス業務がメインで、油にまみれながら床や壁を這いつくばったり、潜水艦のモーターの出力制御やそれを動かすためのバッテリー管理などをしていましたね。

潜水艦乗員という希少な経験、エピソード

ーー潜水艦乗員だったんですね!自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

後藤さん:教育隊での思い出が深いですね。教育隊では100名近くの同期と昼夜を過ごしました。

たった4ヶ月程度の教育期間でしたが、教育が終わり、密度の濃い時間を過ごしたためか、全国各地に散り散りになる際は別れを惜しんで泣く方も結構いました。自衛官なら同様の経験はあると思いますが、民間に出て振り返ってみるとその時間の密度の高さをあらためて感じます。退職後も現職の同期とも年1,2回会ってお互いの近況報告をしています。

また、潜水艦勤務もなかなか強烈で、新人は魚雷保管庫で寝泊まりするんです。そこにマットを敷いた簡易ベッドで。魚雷に囲まれて寝る環境ですが、音もすごいんですよね。普段潜水艦は敵に所在がバレないようにバッテリーで動きますが、充電時はディーゼルエンジンが爆音で動くんです。場所によっては自分の声すら聞こえないほどですが、慣れてくればそんな環境でも、普通に寝られました。

ただ、大変なことばかりではなく、潜水艦乗員でないと経験できないこともあります。

良いエピソードでいえば、とある沖に停泊していた際、見張り員としてセイル(潜水艦上部)に配置されました。機関科員なのになんでだろう?と少し疑問に思っていましたが、その夜は流星群の日でした。

周り一面海の中、明かりは遠くの山村に少しばかりという状況で、舞い降りる流れ星に、感動して目を奪われました。上官の粋な計らいだったんだと思います。

その他、潜水艦乗りならよく知られている出航中のクリスマスイベントもあったりといろいろ経験させてもらいました。

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ーー潜水艦乗員は希少ですので、貴重な経験ですね。

後藤さん:そうですね。潜水艦は、日光もろくに浴びられず、ランニングができる甲板もないため海自の中でも希望者が少ないのが実情です。人気が無い中で、いろいろな試験もパスしないと乗組員になれない職種でもあり、成れるチャンスを捨てずに活かす事の大事さ、貴重さも学びました。この学びは、後の転職にも繋がっていますね。

また、潜水艦内外の様々な事情、情報を勉強できたり、情報科の講義を聞くことで、日本と諸外国の関係など、視点もスケールもそれまでとまったく異なる規模の世界に触れる事ができたのも、潜水艦職種だからこそ得られた経験だったと思います。

自衛隊は、全国から世代間関係なく、中卒から院卒までほぼすべての学歴が同じ組織に同居する稀有な環境です。そこは日本人社会の縮図といっても過言ではなく、それを体感できたのも非常に良い経験になりました。

当時さまざまな人たちと寝食をともにしたことで、その後企業で働く際に、製品ターゲットとなる人たちの思いや考えを知る際のマーケティング視点にも生かせています。

ーーいろいろな視点で得られた経験を生かされている後藤さんはすごいですね。そうした中、転職されましたが、なぜ自衛隊から民間企業へ転職されようと思ったのでしょうか。

後藤さん:もともとゲーム業界を目指して情報系の技術を学び、自作を試みて、より必要な勉強をしていくというサイクルでIT情報系分野に関しずっと関心を持ち続けていました。

そのため、自衛隊に入隊しつつもIT情報分野で仕事をしていきたいという気持ちを捨てきれず、IT業界を知らずに生涯を過ごすのは間違いなく後悔するだろうという考えもありました。

そうした中、自分の興味はどこにあるのかを再認識し、後悔するよりも新たな挑戦をしたいという気持ちで転職を決意しました。

自衛隊からまず職業訓練校へ

ーーIT業界に挑戦しようという強い気持ちがあったのですね。転職時の就職情報収集、スケジュール、準備等必要だったと思います。どのような準備をされましたか。

後藤さん:退職の2週間ほど前まで出航しており、正直一切の事前準備ができていませんでした。しかも退職直後にリーマンショックが起き、転職市場としてはあまり良い状況とは言えませんでしたが、逆に開き直って腰を据えて活動する覚悟ができたとは思います。

私の場合、IT業界への転職のため、自衛隊の援護課は使わずに、自分で情報収集をしました。

情報収集する中で、すぐに企業へ転職するのではなく、希望する制御・組込系の職業訓練校に通って経験を積みながら、転職活動を進めることにしました。スキル習得や底上げはもちろん、就職という同じ目標を持つ人たち同士で、お互いに情報交換ができ、継続的に就職活動ができたことは良かったです。

ただ、盲点だったのは、元公務員だと雇用保険の対象外で、職業訓練校に通うと得られる給付もなかったことですね。そのため、職業訓練中は無収入だったことに不安はありました。

ただ幸い私の場合海自でしたので、護衛艦乗組員なら1.3倍、潜水艦乗組員なら1.45倍の手当に加え航海手当などがつき、しかも出航中はお金を使う場もほとんどないため、ある程度貯金や活動資金の備えがありました。

なので、もし活動を行う覚悟を決めた場合は、事前にある程度の資金は準備しておいた方が良いと思います。

パワード義足で障害者の生活満足度の向上を

ーー周到な準備が必要ですね。では、現在のお仕事についてお聞かせください。どのようなお仕事かとご自身の今後のキャリアも教えていただきたいです。

後藤さん:今の会社では、パワード義足に関する制御理論を除くソフトウェア全般を任されています

パワード義足は、様々なセンサーにより装着者の姿勢などを認識させ、モーターの動力によってより安全に、快適な日常生活をアシストする事を目指した義足です。

たとえば、従来の義足では振り子のように足を振り出して歩きますが、ちょっとした地面の凹凸に触れただけでもその勢いが削がれ、転倒に繋がります。これに動力を持たせることで、足を能動的に振り出したり、体を支える事が可能になります。

また、階段昇降で片足で一段ずつでしか登れない方でも、動力で体を押し上げることで自然に登り降りすることも可能になります。2020年11月にはこの義足を用いて義足義手技術の世界選手権とも言われる「CYBATHLON(サイバスロン)」に出場し、他社の義足と明らかに違うことを世に認知してもらうこともできました。

義足をロボット化! スムーズな歩行を補助するパワード義足「BionicM」

私のメインの業務は、組込みエンジニアとしてリアルタイムOS導入からシステム全般の設計とその実装ですが、IoT要素としてBluetoothによる通信機能の設計・実装や、その通信相手となるPC・スマホアプリの企画、設計開発も行っています。また、クラウド連携も想定しており、社内の環境整備も含めたサーバー選定から構築なども行っています。

マネージャー職でもあるため、全体スケジュールの設定や他チームとの調整、採用や派遣などの対応にもあたっており、どれもナビベンチャーとオーディオメーカーで明確な目的を持って学んだ経験が発揮できており、また、さらに多くを学べる大変貴重な環境だと実感しております。

今後のキャリアは、

「ベンチャーを成功させられるエンジニア」

を自身の理想像として目指しています。

そして、今の環境だけでなし得きったとは考えておらず、今後もそういった環境に身を置き、まだまだ成長していきたいと考えています。

組織に横串を入れられる人材となれ

ーー今後もますます活躍の場が広がるキャリアを作られていますね。後藤さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

後藤さん:自衛隊では、集団行動が基本となります。そのため、周りへの配慮や気配りもたくさん学び、気付いたことを見てみぬふりをせずに行動することやその必要性を学びました。それはどんな組織においても貴重で大事な心構えです。

今の日本はお互い干渉し合わない風潮があると感じており、それが組織の硬直化に繋がっているように思います。そんな私も自衛隊に行っていなかったら間違いなく干渉を嫌う風潮にのまれていたと思います。

この風潮を変える潤滑油としてや、橋渡しとして横串を通してくれる人材はどこに行っても間違いなく重宝されます。これは自衛隊出身というだけですぐにでも使える重要かつ貴重なキーワードだと考えます。

一方で、気配りばかりで、集団の調和を守りすぎるとただの歯車人材でしかなく、それは競争社会において歓迎されないとも考えています。自衛隊は絶対的な歯車組織ですので最初は難しいのかもしれませんが、自分の立ち位置がよくわかるモノサシの基準点を得たと考え、少々の失敗なんて恐れずどんどんチャレンジして欲しいですね。

ーーモノサシの基準点とは面白い視点ですね。

後藤さん:距離や位置関係は、2点を結ぶことで把握できるものですし、また、その2点が近いと全体像も捉えにくいものです。自衛隊と民間企業の極端な立場を経験したことは良い視点を得たと思える日が来るはずです。

一方で、元自衛官という立場に対して、覚悟や厳格さを求められる場面もあると考えていますので、うまく自分の自衛隊経歴をプラスにできる考え方・置き換え方が大事だと思います。

ーーなるほど、2点、2軸の経験が今後の自分の糧になるんですね。それでは、就職する際に注目すべき点があれば教えてください。

後藤さん:会社の「ビジョン」をしっかり把握することじゃないでしょうか。組織は目標や目的の共通認識を持たないと成り立ちません。これは、自衛隊的に表現すれば、中長期的・戦略的にはフネ=会社の目的地もそうですし、短期的・戦術的にはフネ=会社の操艦も同じです。

民間企業はこれを会社の「ビジョン」で表現されます。私も民間企業に出てみて、その大事さを非常に感じました。会社選びの大きなポイントになると考えています。

ビジョンがベクトル、進むべき方向性を決めるので、たとえば、ビジョンをしっかり語れる社長でないと会社自体が右往左往してしまいます。そうなると所属している社員も能動的・自発的な発想や行動が生まれてこず、強い組織になりえません。

しっかりと会社のビジョンを確認して会社選びをしてもらうと良い就業が得られるんじゃないかと思います。

再就職、転職をする自衛官にむけてのアドバイス

目標設定と定期的な活動の振り返りを

ーーこれから再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

後藤さん:おそらく、退職予定自衛官の方は、はじめての転職になる方がほとんどだと思います。さらに、自衛隊という特殊性が逆に「一般的」な会社員との距離を感じて、必要以上に心配もしているかと思います。
ただ、それは逆でもあって、むしろ特殊な環境に馴染んだのであれば、

部隊の異動ぐらいの感覚

で臨めば大丈夫です。

ただし、自分が何をしたいのかどうありたいのかの目標設定はしっかり行ってください。50年先の世界を見越すのは難しいですが、自分の5年先、10年、20年先をイメージして、転職はその中継点として考えてみてください。

私は自衛隊を辞める際は、いずれはソフトウェアのコードすらも自動的に生成される世の中が来るだろうと考えていました。その中で生き残れるのは、物凄く一点に特化したタイプか、領域をまたいだり橋渡しができる人材だと考えて今の道に至ります。

自衛隊という異色の境界またぐことも、掛け替えのない財産になるはずです。その経験をもとに、自らのテリトリーを決めてしまわず、領域をまたぐ事を恐れず、柔軟に様々な意見や立場を受け入れる姿勢を身につけていけば、自ずと自分の居場所も見つかります。

そして、転職後もその会社の特化型で満足せず、プロジェクトなどが終わるたびに業務内容を振り返り、「汎化すること」を心がけていけば、どんな社会情勢になっても必要な人材になれるはずです。

会社の設計もそうですが、人生の設計に「汎化すること」は大事で、汎用化した上で、業務の立ち位置を把握すると全体の繋がりが見えて、特化すべきポイントも明らかになってきます。

目先の作業に追われている時はどうしても点でしか見えませんが、全体を俯瞰をすると線になり、全体の繋がりが見えてきますし、それぞれがどこにどのように作用しているのかを理解すれば、今後も予測できるようになってきます。

そのためにも与えられた業務をただこなすだけではなく、事後でも良いのでその分野や技術などが何の意味をなすのかを振り返って理解することで、得られるものは何倍も変わってきます。

なので、「汎化」と「振り返り」が出来ていれば、良い就職活動やキャリアが歩めると考えています。

ありがとうございました。後藤さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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