プロフィール
鈴木 新一 さん(仮名)
現職:大手損保グループ シンクタンク 上席コンサルタント
自衛隊在職時最終役職:海上自衛隊3等海佐(装備幹部)
元自衛官キャリアインタビュー Vol.34
経歴
ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、鈴木さんの経歴を教えていただけますか。
鈴木さん:防衛大学校51期で、卒業後、海上自衛隊へ入隊しました。江田島の幹部候補生課程の後、装備幹部(航空)として下総にある術科学校へ行き、初任地として下総の航空機整備部隊に配属。2011年に防衛大学校の修士課程に入校し、光ファイバーセンサーの研究で修士号を取得しました。
その後、沖縄の航空機整備部隊に配属。その間、ソマリアの派遣海賊対処行動航空隊の一員としてジブチ共和国に約4か月派遣され、広報に関する仕事に従事しました。
帰国後、幹部中級課程を経て、厚木航空機整備部隊に配属。隊司令の幕僚機能を担う本部担当班長として、航空機の品質管理に従事。
そして、航空機の研究開発を担当する航空隊勤務を経て、海上幕僚監部に異動。幕僚監部勤務時に、自衛隊を退職しました。
現在は、大手損保グループ関連会社であるシンクタンクにて、上席リスクコンサルタントとして、 損害保険に加入しているクライアントを中心に企業の自然災害、火災・爆発、労働災害関連の防災調査やBCP立案等の業務を行っています。
海上自衛隊で、装備幹部(航空)として活躍
ーーまず、自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。
鈴木さん:父親が自衛隊生徒から入隊した、ばりばりの海上自衛官だった影響があります。
防衛大学校に興味を持ったきっかけは、中学校2年生くらいの時、父が乗っていた艦艇を見学させてもらったことだと記憶しています。
士官室に入れていただき、士官室の雰囲気にかっこよさを感じ、そこから、イージス艦の艦長になりたいという強い動機が生まれて、自衛官を目指すようになりました。
父は、准尉で退官しましたが、自衛隊に入隊するからには、父を超えたい思いもあり、防衛大学校を目指し、任官後、階級はすぐに超えましたが、自衛隊を勤め上げた父は今も尊敬しています。
自衛隊での仕事は、海上自衛隊が保有する航空機の整備幹部として、固定翼哨戒機P-3Cをはじめ最新哨戒機P-1、輸送機C-130R、哨戒ヘリコプターSH-60J,K等、多機種の整備マネジメント業務に関わりました。
具体的には、整備計画立案や整備の進捗状況把握などの管理業務や現場の安全管理、部隊間の調整業務等を行っていました。
沖縄の部隊では、分隊長という役職を拝命し、先ほどの業務に加えて、人事管理、教育訓練等の部隊運用に関する管理業務全般を経験しました。
ソマリア難民キャンプへの寄付と試験業務でのプロジェクト企画と遂行
ーーみなさんにお伺いしているのですが、自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。
鈴木さん:ソマリアの派遣海賊対処行動航空隊で、約4か月ジブチ共和国に派遣されたというお話をしましたが、日本で集めた寄付品をソマリアの難民キャンプに対し、国連機関を通じた寄付プロジェクトの立ち上げと、それを遂行した経験が印象に残っています。
当時、日本で集めた寄付品を現地の学校に寄付するプロジェクトがありました。赴任当時はそのプロジェクトを引き継いでいたのですが、現地視察すると学校へ寄付するより、もっと困っている人々への寄付が必要ではないかと感じました。
もちろん現地との交流の一環として、現地の学校と交流することは拠点の安定確保のためにも継続する必要性はありました。
なので、現地学校との交流は寄付を除いた文化交流などを継続して実施し、寄付先を新しく探すことにしました。
当時、現地でJICAの隊員の方々と情報交換しており、ソマリアの難民キャンプでも活動をしていると伺い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のプログラムオフィサーと即座に意見交換の場を作りました。
ジブチではソマリアの難民を継続して受け入れており、寄付品の提供は非常にありがたいという話になり、自衛隊からUNHCRを通じて難民キャンプに対し、寄付することが決まりました。
困っている人の役に立ちたいという思いと、真に意味のあることをしたい、という気持ちを主体的に実行し、英語での現地調整も苦労しましたが、目的を達成でき、非常に達成感がありました。
また、航空隊で担当した研究開発のあるプロジェクトも思い出深いです。当時、航空機搭載装備品が正しく機能するか米軍から認証を得るための試験業務を担当することになりました。
こうした試験業務は、ゼロからのスタートが多く、覚えることも多く大変です。
さらにこのケースでは米軍も関与する重要な装備品ということもあり、部隊でも重要視されていました。
最初は、装備品の運用や操作要領の知識もない状態からスタートし、試験業務の準備段階で関連する取扱説明書や資料で自主学習することによって、装備品に対する知識を深めました。
実際の装備品の操作は、航空機に搭乗する運用者が担当しますが、装備品の知識を深めた結果、運用者に対して操作方法を指導できるまでになりました(笑)
1年ちかくかかるプロジェクトで、米軍関係者、運用者、外部業者、整備担当者ととにかく調整先が多く、大変でしたが、無事に試験業務を終え認証も取れ、国防に役に立っていることは、自分の誇りでもあります。
家族との時間を大切にしたく転職を決意
ーー転職に関して、なぜ自衛隊から民間企業へ転職されようと思ったのでしょうか。
鈴木さん:転職の大きな理由は、家族との時間です。息子と娘の二児の父親ですが、家族と一緒にいる時間を大切にしたいと、あらためて考えるようになりました。
転職を考え始めた当初は、海上幕僚監部勤務でした。海上自衛隊の運用に関わる中枢機関であり、どうしても業務が多忙になりました。
家に帰れない状況やコロナ禍で、隔日出勤になったものの、業務量は変わらないので、その分、やり上げなければならない仕事量が多く、家族との時間を犠牲にしてしまっていました。
当時は気付いていなかったのですが、次第にその負担が家族にのしかかっていたようで、ある日、妻から息子が学校に行きたがらないと相談を受けました。
話を聞くと、学校に問題がある様子ではなく、父親である自分に原因がありそうだと感じました。
家族との時間が確保できないことで、自然とコミュニケーションも減り、息子や妻に負担をかけてしまっていました。
仕事へのやりがいや上司や組織からの期待もあり、土日でも出勤、遅くまで残業するということが当たり前だと考えていたものの、家族との時間を確保する難しさがありました。
家族にも相談し、自分の優先していた軸を変えることを決めました。自分の周りや環境の変化とともに優先すべきことや、軸はタイミングごとに見直さないといけないと思っています。
それが僕の場合は、家族との時間が増やせる仕事への転職でした。子どもたちの今しかない幼少期の時期を一緒に過ごすことが最も大事だと考えるようになりました。
ーーなるほど。環境の変化に伴って、見直す時間をつくることで優先順位が変わったということですね。
鈴木さん:そうですね。仕事は大事ですし、やりがいがある仕事ができることは、大変恵まれていますが、一方で、なぜ仕事をするのかを考えると、家族を養うためお金を稼ぐことです。
仕事はあくまでその手段の一つであって、目的は家族の幸せを追求することにあると思っています。
子どもとの時間は戻ってこないですし、お金には変えることのできない、かけがえのないものです。
転職エージェントも頼ったが、最後は自分で応募した会社へ就職
ーーでは、転職はどのように進められたのでしょうか。
鈴木さん:在職中は、転職サイトへの登録や情報収集のみ行っていました。
そもそもどういった仕事があって、自分にできる仕事はあるのかや、家族がいるので、一定の収入が得られるためにはどのような業界へチャレンジできるかといった情報収集をしていました。
当時、35歳でしたし、転職の35歳限界説みたいなこともエージェントから聞いたりして、非常に不安も多かったですね。
とはいえ、在職中の転職活動は、業務が忙しく、本格的な書類応募や面接等はできませんでした。
ーーそれで、退職してから、転職活動をされたんですね。
鈴木さん:そうですね。焦って転職先を決めてしまい、また転職するとなるといよいよ、転職先が制限されてしまいます。
それならば、親戚の自営業を手伝うことでその間お世話になれるという話があり、退職後に腰を据えて、転職活動をすることにしました。
ーーどういった転職活動をしていたんでしょうか?業務経験のある航空機業界は検討されなかったのですか?
鈴木さん:航空機業界は自衛隊の業務で相性が良かったものの、あえて外していました。長らく航空機関係で仕事をしていたため、違う世界を知りたいという思いもありましたので。
それでも就職先が見つからない場合は、航空機業界も検討に入れようと考えていました。
ーー今の会社とはどのような出会いだったのでしょうか?
鈴木さん:エージェントからの紹介や求人サイトへ登録する中で求人を見て、自分でもできそうで、人の役に立てそうなところは片っ端からエントリーしていました。
正直未経験なので、贅沢は言えないだろうという気構えでしたね。
そんな中、いまの会社は、たまたま見ていた求人サイトで、自分の自衛隊での経験を生かしかつ人の役に立てそうだと思い、自分からエントリーしました。
書類選考は、最終的に30社くらい出して、面接に進めたのはその内3社くらいでしたので、この会社はとんとん拍子に決まりました。
幹部自衛官のセカンドキャリアは、リスクコンサルタントと相性がいい?!
ーータイミングなんでしょうね。いまのお仕事内容とご自身の今後のキャリアをお聞かせください。
鈴木さん:メインの業務は、コンサルタントとして、グループ会社のクライアント企業のもとを訪問し、主に工場の防災調査を行っています。
工場の自然災害、火災・爆発リスク、労働安全を主軸にリスクを洗い出し、その解決策の提案をします。
リスクを明確にし、どのように対策すればいいのか、工場の担当者や責任者は知りたいわけですが、あらゆる面から中立なアドバイスや方向性を示していきます。
解決策には経費も掛かることが多いため、対策の優先順位や考え方もアドバイスしたりします。
リスクの把握や解決策の導出など一連の考え方は、まさに幹部自衛官として担当していた領域だったので、これまでの経験が活かせています。
自衛隊も国のために貢献できる責任ある仕事だと理解していましたが、私のような後方職域を担当していると国防に貢献できているという実感が湧きづらかったんです。
しかし、今の仕事は、クライアントと直接やり取りをし、困っていることへ手助けでき、直接感謝される機会も多いので、やりがいも感じています。
今後のキャリアは、社内外問わず、いろいろとチャレンジしたいと思っています。今まで培った経験をもとに、まったく新しい事業や社会に貢献できることで社会に貢献していくことが、私の人生の使命だと考えています。
理想は、独立も視野に入れ、家族との時間を自由に確保でき、社会に貢献できる仕事を生業としていきたいと考えています。
ーー鈴木さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。
鈴木さん:僕にとっての話になりますが、今の会社の仕事は、自衛隊で経験したことを非常に活かせています。
災害派遣の経験は、東日本大震災や急患輸送などですが、前線に出て活躍していたわけではありません。
それでも任務に必要な考え方や知識が今の防災調査などには非常に役立ちます。また、クライアント企業にとってのリスクの把握、優先順位付け、対策の導出といった流れは、自衛隊の勤務の中でさまざまな場面において何度も経験したことです。
たとえば、航空機の不具合による整備計画の変更や部下の人事異動の調整なども同じ流れだと思います。
クライアント企業の調査の際は、色眼鏡が掛かってしまう可能性もあるため、自分が元自衛官とは事前には伝えないんですが、最後に、元自衛官であることや災害派遣の経験を伝えると、より信頼してもらえますね。
これから転職・再就職する自衛官へのアドバイス
セカンドキャリアへの挑戦、自己評価を適切に!
ーー災害派遣経験者の目線は強いですね。では、これから再就職、転職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。
鈴木さん:自衛隊にいた時は、自分は自衛隊の仕事以外何もできない、自衛隊でやってきたことは潰しが効かないと言われたことをそのまま受け止めていました。
その認識が生まれてしまうのは、仕方が無いとは思います。自衛官は、民間の人たちからどう見られているのかがわからないですし。
ただ、今はそうではなかったと強く思っています。
自衛隊で経験してきたことは、しっかり活用できますし、自己評価を低くする必要はありません。
自衛官として当たり前にやっていたことの中から、自分の武器をいかに見出せるか、にかかっていると思います。灯台下暗しですね。
自分の実現したいビジョンを明確にし、次につながるセカンドキャリア、そしてその先も考え、行動するのであれば、挑戦したいですよね。
ーーどうすれば認識の穴埋めができるでしょうか。
鈴木さん:まずは、自己分析が必要です。自己分析をして、経験してきたことを書き出してみると、自分だけでも気付かなかった強みややりたいことが浮かんできます。
そして、自分だけでそれを留めてしまうのではなく、いろいろな人にみてもらうと良いです。
普段交流している人だけでなく、まったく異なる業界にいる人にも見てもらうのが良いと思います。
同じ業界の中で話をしていると、当たり前のことが実は別の業界ではニーズが高いことに気付き辛かったりします。
私も退職後も、同期や後輩、先輩などとの交流を良い情報交換の機会と考え、いろいろな話をします。
民間企業の考え方や最近のトレンドなど、自衛官では気付きにくい点など話します。そうしたやりとりから、私も「気付き」を得ています。
なので、違う業界の人に見てもらうと、自分では気付かなかった自分自身の強みや、やりたいことが見えてきます。
また、常に頭で考えていることですが、
「失敗をしてもいい。そこから何かを学ぶことで人はより成長できる。失敗を恐れて、何もしないことは、失敗をすることよりもはるかに劣る」
と迷った時は考えています。経験は決して無駄になりません。ぜひ、試行錯誤しながらも、チャレンジして欲しいと思います。
ーーありがとうございました。鈴木さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。