元自衛官インタビュー

自衛隊の教育・研究畑で得た知見・経験を活用したキャリア形成

プロフィール
平山 実さん
現職:日本ウェルネススポーツ大学 スポーツプロモーション学部 教授 兼 日本ウェルネス保育専門学校 講師
自衛隊在職時最終役職:陸上自衛隊2等陸佐

元自衛官キャリアインタビュー Vol.25

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、平山さんの経歴を教えていただけますか。

平山さん:防衛大学校から陸上自衛隊へ入隊し、施設科に配属されました。施設科の部隊で9年間勤務した後に、陸上自衛隊施設学校研究部を経て、防衛庁長官官房(当時)へ異動し、その際に研究の道にキャリアチェンジしたい気持ちから、自費で青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程を修了しました。

その後、防衛大学校総合安全保障研究科修士課程(国際安全保障コース)を修了。防衛研究所研究部、陸上自衛隊研究本部総合研究部、防衛研究所戦史部を経て、防衛大学校で教鞭を取り、防衛大学校防衛学教育学群准教授にて2014年9月に定年退官し、企業へ再就職しました。

現在は、日本ウェルネススポーツ大学スポーツプロモーション学部准教授及び、日本ウェルネス保育専門学校講師をしています。

ーー自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

平山さん:自衛隊は防衛大学校から、入隊しています。もともと理系で、大阪の薬学系大学も受かっていたんですね。ただ、ちょっと変わったところに行きたいと思っていました。

そうしたところ、当時の自衛隊の地方連絡部から紹介を受け、受験した防衛大学校に受かったため、入学しました。専攻は、応用化学科に進学しました。

ーー入学前とのギャップはありましたか?

平山さん:それはもう沢山ありました。入学前は、防衛に特化しているといえども、大学に準ずるためもっとアカデミックだろうと思っていました。

ただ、僕がいた当時は、思った以上にビシバシと新隊員教育隊のような肉体的、精神的な鍛錬があり、厳格な学生生活でしたね。

辞めたいと思ったこともありましたが、入学を決意した以上、卒業までやり切る気概で何とか乗り切りました。

僕は27期生ですが、約530人の入学者がいて、約140人が途中で退学しました。個人の向き不向きか、忍耐力の差なのか、はたまた教育の厳しさなのかは、分かりませんが、他の期の中でも退学が多い期だったようです。

ヒトの運用に関心があり、陸上自衛隊へ入隊

ーーハードですね、昔はとくにキツかったのかもしれませんね。陸上自衛隊を進んだ理由はなんでしょうか。

平山さん:海上自衛隊は、機械(艦艇)運用が主になり、航空自衛隊はパイロットを中心としたシステム運用になりますよね。

陸上自衛隊は、人が中心で、人の運用により任務を遂行します。人の運用に興味があったため陸上自衛隊を選びました。また、部隊が比較的都会にあったこともありますね。

ーーなるほど、施設科は希望通りの配属だったんですか?

第一志望は、高射特科を希望してましたね。当時、海外志向が強く、高射特科は、実射訓練にアメリカへ行くことが多いので、現地へ行く機会が多いことに魅力を感じてたんです。

結果的に施設科配属にはなりましたが、米軍との交流プログラムも職種を超えてありました。僕の場合は、米国海兵隊隊付訓練(カリフォルニア州キャンプペンデルトン)及び日米幹部交換プログラムで3ヶ月間キャンプ座間の司令部勤務したり、よい経験になりました。

部隊勤務をしている中、研究畑に行きたいと考えるようになりました。そのため、キャリアチェンジを目指して、防衛庁長官官房(六本木)勤務の際に、青山学院大学で国際政治経済学研究科修士課程を修了し、アカデミア方面へ行くことにしました。

当時、勤務しながらの勉強は大変でした。とくに防衛庁での私の役割が、防衛庁のIT化推進がミッションでした。当時、霞が関の中央官庁がインターネット導入や1人1台体制を整備し始めた時期でもあり、防衛庁もその施策に参加することになりました。

「防衛庁中央OAネットワークシステム構想」という中央施策があり、その陸自代表メンバーで参画し、その予算要求、執行及びインフラ整備を実行。

そして防衛庁が六本木から市ヶ谷へ移転後、この構想が完成し、市ヶ谷地区のネットワークが繋がり、1人1台体制が実現したのでした。大事業でしたが、やり切った感がありました。

このような外部との調整等、非常に忙しい業務の中での、平日夜間、土曜日の大学院を何とか修了しました。

その後は、より安全保障の専門性を高めようと、フルタイムの防衛大学校総合安全保障研究科修士課程(国際安全保障コース)を修了

安全保障の専門性を活かして、防衛研究所研究部・戦史部所員、陸上自衛隊研究本部総合研究部研究員を経て、防衛大学校防衛学教育学群統率・戦史教育室准教授として、教鞭を取っています。

時代の変化を感じた防衛省勤務時代

ーー希望通りのキャリアチェンジができたわけですね。自衛隊でキャリアを考える人たちの参考にもなりそうです。自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

平山さん:防衛庁(現防衛省)勤務ですね。当時、陸上自衛隊施設学校研究部から長官官房総務課へ異動しました。当時は、いわゆる防衛庁の中でも、制服組(自衛隊)と背広組(防衛庁キャリア組)が明確に分かれていた時期でした。

背広組は自衛隊組織とは別ですので、指揮系統や文化も違います。当時の(上司であった)総務課企画室長が、東大卒官僚でしたが、頭の回転の速さや業務のさばき方のうまさに感銘を受けましたね。 

ただ、両者の考え方、価値観も違い、制服組と背広組の意見の相違からコンフリクションもあったりしました。

その理由の一つが、もともと文民統制(シビリアン・コントロール)の一環で、背広組を上位とするルールが規定された「内部調整に関する訓令」がありましたが、それが廃止になったんです。すなわち、背広組、制服組が同等になり、対等な議論が可能になったんですね。

当時、PKO草創期の時代で、制服組の知見がないと現場運用ができず(PKO開始前は、国会での「神学論争」でよかった概念論争の時代でした。)、国際貢献活動に支障を来たすことで、変化が求められている背景がありました。

もちろん、背広組は既得権益をすぐに手放すことはしないです。ただ、国際的に貢献を求められる環境になり、官僚任せでは実際的でなく、効果的運用にならないことからも、当時の政権がリーダーシップを取り、法令・運用等を変えていきました。

自衛隊が国だけでなく、国際的にも活躍を求められ、政治家に信頼されて、国益にも直接的に寄与する時代になったことが印象的でした。

元自衛官で、大使になって国際的に活躍している人たちが、その後出てくるようになりました。これらの件は、僕の研究領域でもあり、実態を見られました。

※参考:拙稿 「自衛官国際派の役割と意義の研究」
平山 実 『防衛大学校紀要社会科学分冊 (110) 』pp117 – 120、 2015年3月

ーー再就職時の就職情報収集、スケジュール、準備等必要だったと思います。どのような準備をされましたか。

平山さん:今の大学准教授のポストは、当初学校法人に事務職員として採用され、事後大学教員としても採用されたものです。自衛隊援護協会からの紹介で再就職した大手企業は一度勤務したものの、自分でやりたいことを考えた時に教育研究をしたいという思いから、運良く、自己応募して就職に至りました。

なので、自衛隊からの再就職は、ルートがあるため、ほぼ準備することはなかったです。ただ、大学への就職は自分の研究や防衛大学校での教鞭を取った経歴、学歴、研究業績や経験が分かるように資料を整備して、しっかり準備して通過しました。

参考:学歴・研究業績

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前横須賀市長との写真

安全保障に対する考えを広く理解してもらうための活動

ーー現在はどのようなお仕事をされていますか。ご自身の今後のキャリアをお聞かせください。

平山さん:教員として、学生への教育指導をしています。キャリアに関しても、基本的にできるだけ長く教鞭を取ることを考えています。

ただ、昨今のコロナ禍で、教え方も変わってきました。オンライン教育の拡充や、国際政治、国際安全保障の専門性を活かして、新たに民間企業でも必用とされる価値となるオンライン資格の創設を考えていたりします。

とくに安全保障に係る検定を考えています。あまり知られていませんが、多くの大学では、戦史や軍事史を専門とした文化部系のサークル「戦史部・戦史研究会」があります。

ただ、それらは個の存在で、ネットワーク化されていないため、より全体の専門性を高めることや、若い頃から安全保障の重要性を認識してもらうために、各組織のネットワーク化や検定問題の協同作成を考えています。

参考:平和防衛検定HP

安全保障の教育でいうと、防衛大学校も部外にも広く安全保障の教育を提供してます。しかも学費無料で、かつ教育を受けている間は特別研究員で雇用される大学院教育プログラムがあります。興味ある方は応募してみるといいかもしれません。

特別研究員(非常勤職員)採用試験受験案内

ーー平山さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

平山さん:調整・企画・計画・監督能力があると考えています。これらは、公務員でも企業でも業務を推進するうえでの基本的能力になりますが、幹部自衛官で、内局・幕僚監部勤務をした人はどこにいっても使えると思います。

また、人を動かす能力も一定程度持っていると思います。民間企業と自衛隊では人が動く動機や、動かす人のバックグラウンドは違いますよね。自衛隊では、命令だけで動かない人も動かすような、個人対個人の信頼関係の築き方や信用の作り方を現場ベースで得られます。

こうした、企業でいうところのマネジメント能力は、本を読んで身につくものではないため、自衛隊経験によって得られるスキルの一つじゃないでしょうか。

マインドは打たれ強いことで、多少叩かれても、折れない、強くなることでしょうか。余裕があれば、相手の心理もわかることや見通せることで、組織内・間の調整をすることができるとも思っています。

民間企業で使用できるスキルは、自衛隊で、IT技術、理工学技術、経理、語学、法律、建築・土木等に携わっている人は、即活用できる可能性は高いと思います。

できれば、経験だけではなく、「資格取得」して「見える化」しておく方がいいです。そうした資格を在職中に自分の専門分野と併せて取得しておくと比較的自己実現のための再就職をしやすいのではないかと思います。

再就職、転職する自衛官に向けてのアドバイス

セカンドキャリアを見据えた積極的な情報収集をオススメします

ーーこれから再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

平山さん:まずは、自衛隊で培った能力のお話をしましたが、全て通じるとは思わないことが重要かと思います。どうしても在職中の仕事でいっぱいになってしまうかと思いますが、実際、再就職、転職をするとその先での業務はゼロベースですし、そのような考えで取り組んだ方が良いと思います。

そのため、準備を早くから取り組むと良いと思います。ときどき、かつて俺は偉かったとの考えで、それで干される元自衛官がちらほらいます。民間企業は階級では動かない人が多いので、ゼロベースとの認識のもと、考えを変える必要があります。

また、準備に関しては、常に新しいことを求めていく姿勢が良いと思います。自分の中に、常に問題意識を持ったり、そのアンテナを立てていく。自分でやっている仕事が平均以上かもしれないですが、それで満足するのではなく、それに関連するスキルをどうより良くするかといった思考も必要かもしれません。

いろいろとお話しましたが、実際に行動を起こすことといえば、まず人と会うこと。全然知らない人と会うと、自分に無かった考えを得られることが多くあります。ですので、積極的に外の人と話をすることをお勧めします。

ありがとうございました。平山さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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