元自衛官インタビュー

元幹部自衛官からライフサイエンス業界へのセカンドキャリアの作り方

プロフィール
鈴木 貴紘さん
現職:株式会社ウィズ・パートナーズ ディレクター(投資会社)
自衛隊最終役職:航空自衛隊幹部候補生学校
 
元自衛官で現在はヘルスケアやライフサイエンス業界で活躍されている鈴木さんに、なぜ自衛隊から転職してこの業界を選ばれたのかや業界のやりがいを教えてもらいました。これからセカンドキャリアを目指される自衛官の方々にライフサイエンス業界でのキャリア形成への参考にしてもらいたいと思います。

経歴

ーー本日は元自衛官のキャリアインタビューにご協力いただきありがとうございます。まず初めに鈴木さんの経歴を教えていただけますか。

鈴木さん:私は、防衛大学校47期卒です。卒業後に航空自衛隊幹部候補生学校へ入校しましたが、幹部候補生学校の時に生命科学分野にキャリアを転換したいと思い立ち、退官しました。

卒業後は横浜市立大学大学院にて、分子生物学の学位を博士課程まで取得。その後、国立研究開発法人理化学研究所にも勤務する形で、20年以上ゲノムや遺伝子分野の基礎研究を行ってきました。

2022年からウィズ・パートナーズという投資会社で主にヘルスケアやライフサイエンス業界の投資先の探索や企業への投資、その後の投資先企業の価値向上を行っています。

ーーまず自衛隊からのセカンドキャリアでなぜこの業界を目指されたのでしょうか。

鈴木さん:もともと自衛隊在職中から生物学の研究に興味を持っていました。ただ自衛隊では生物学の研究の機会が防衛大学校含めほとんどなく、そのためキャリアとしてイチから生物学の研究者になることを決意し、退官後に生物学系の大学院に入学して学位を取得しました。

生物学に興味を持ち、幹部自衛官の道から研究者の道へ

ーーなるほど、自衛官から研究者というなかなかニッチなキャリアに関心を持たれたんですね。生物学に惹かれたのはなぜですか?

鈴木さん:ニッチですよね。まず研究者を目指した理由は「面白さ」です。というのも、防衛大学校の卒業研究で初めて研究というものに触れました。研究とは、それまで分からなかった現象を解明していくことですが、それがすごく楽しかったんです。

当時は材料化学を専攻していましたが、化学や工学と比較して、生物は解明されていないことが多いです。

その謎の解明というロマンから生物学に関心を持ちました。

そこから研究者として10年以上のキャリアを積みました。キャリアを積んでいく中で、日本の基礎研究には世界と比較しても光る可能性のあるものがたくさんあるのになかなか実用化につながらない課題を感じています。

そのような良い基礎研究を実用化に繋げる仕事をしたい思いが強まる中で、また基礎研究のキャリアを積んできた自分だからこそ出来ることがあるのではないかと思い、投資会社へ転職しました。

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    防衛大学校時代の鈴木さん

研究者から研究を資金面で支援をする投資会社へ

ーー社会実装には多額な資金が必要ですからね。基礎研究のバックグラウンドがある鈴木さんはそうした目利きでも強みがありますね。それでは、今いる会社ではどのような仕事をしているのでしょうか。また仕事のやりがいも教えて下さい。

鈴木さん:仕事の内容は多岐にわたりますが、さまざまな投資家様から資金の母体とするためのお金を集めるファンドレイズ、投資先の発掘、投資先の価値向上などが主な仕事です。

投資先の発掘や投資先の価値向上では研究者時代の経験も生かせるのですが、投資会社のため金融の知識も必要です。そこに関してはまだまだ日々勉強という感じです。

良い技術を持っているものの、なかなか価値を高められない企業を発掘して、うまくいかない点の補助や伴走。そして最終的に価値を高めたり、埋もれてしまっている良い技術を明るみに出して社会をよりよくする貢献ができることがやりがいにもなっています。

ただ、すごく時間もかかりますし、場合によっては会社を立ち上げたりもします。現場の仕事から経営まで関わることもあり、本当にマルチタスクです。

ライフサイエンス分野の国家安全保障の課題感

ーー忙しそうですが、事業作りを多方面から支援するやりがいのあるお仕事だと感じました!また、自衛隊時代には有事の際に国を守るという使命感で仕事をしていたと思いますが、現在のお仕事の取り組み課題やモチベーションをお持ちでしょうか。

鈴木さん:我々の投資先企業には、コロナウイルス感染症のワクチンを製造する会社や、検査キットを開発する会社などがあります。

日本ではあまり感じないのですが、感染症対策は世界的には重要な国家安全保障のひとつとなっており、そういった意味では、業界や目的は違うにせよ、自衛隊のように国を守る役割があると思っています。

また新型コロナウイルスのパンデミック以降、日本でも国家を挙げて感染症のパンデミックに対応できる仕組みの検討及び構築化が進んでいます。

ただ、その解決となるワクチン製造をはじめ日本の創薬力やイノベーションには課題を感じています。元研究者の立場から言えば、国・民間の資金が創薬のための基礎研究に回っていないことが原因の一つと考えています。

創薬のタネを植える良い土壌がありつつ、その土壌から芽を出すためにはお金が必要です。そうした良い土壌に必要なヒト・モノ・カネが循環するシステムが日本はまだ十分には育っていません。

そうした課題にも弊社では、アカデミア発のスタートアップ企業や、CRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)、CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization:医薬品開発・製造受託機関)と呼ばれる研究開発を支援するプラットフォーマー企業に出資・支援を行っています。そしてお金だけではなく、取り組みの中で、アカデミアの人材を企業に繋ぐ、人材の循環にも一助しています。

人材の循環に関して言えば、日本では未だ転職が多いことが採用の際に嫌われがちですが、さまざまな組織を経験した人の採用が当たり前の世界になることによって、多様性や企業にとってもよい循環を生み出すとも考えています。

ーーなるほど、一つの組織に拘らずさまざまな組織にいることがキャリアの価値にもなるんですね。ちょっと違った視点での質問ですが、周りのセカンドキャリアを歩む元自衛官の職業、職種等で自衛隊で培った素質素養が生きることがありましたら具体的に教えてもらえますか。

鈴木さん:自衛隊からコンサルティング会社への転職を考える方は多い印象ですね。自衛隊もヒエラルキーの組織ですし、民間企業も同様です。

ヒエラルキーの組織に慣れていること、そしてコンサルティング企業の場合は、お客となるクライアント企業の戦略をリサーチから立案、実行まで行いますので、自衛隊での作戦、戦術、戦略の順序立ててやってきた仕事を応用できるため、相性が良いと思います。

また、柔軟性や自己完結能力といった個々の能力も自信を持っていいのではないでしょうか。とくにベンチャー企業のように一人ひとりの職域の幅や対応が求められる環境では、自衛官のようにさまざまなタスクを同時進行で行い、管理することに慣れた人たちとの相性が良いのではないかと感じます。

セカンドキャリアを目指す自衛官へのアドバイス

ーー最後に、自衛隊から転職するにあたってどのようなキャリアを作ることが良さそうか鈴木さんの視点で、教えていただけますでしょうか。

鈴木さん:自衛隊から民間企業への転職の道のりは簡単では無いです。そのため、自衛隊での経験にプラスして、資格や人脈など、転職にプラスの要素があると、よりスムーズに進むと思います。

業界で活躍している方々との出会いや、出会いを見つけにいくこと、そしてそうした人たちからの情報は非常に有益です。

最近は知人を介して、企業に転職するようなリファラル採用が活発になってます。そうした観点からまずは防衛大学校卒であれば防大OB組織である「小原台クラブ」や「Veterans Channel」のような元自衛官が集まる場所もしくはLinkedinといったツールを使い、有益なコネクションを築くことも良いのではと思います。

自衛隊経験者であれば、お互いに助け合うことをいとわない人が多い傾向かと思います。他業界のOBと比べても、より強い絆を感じます。だからこそ、繋がりを積極的にかつ前向きに作りにいき、深めることが大切だと思います。

ーー貴重なご意見やアドバイスをありがとうございました!
 
※本インタビューはは個人の見解に基づくものであり、所属組織を代表するものではありません。また、本インタビューは、特定の取引、商品の勧誘を目的としたものではありません。