元自衛官インタビュー

自衛隊から高級ホテルバーテンダーへのキャリア作り

元自衛官キャリアインタビュー Vol.23

プロフィール
濱 裕一郎さん
現職:ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜 Bar-Chief
自衛隊在職時最終役職:陸上自衛隊陸士長

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、濱さんの経歴を教えていただけますか。

濱さん:高校卒業後、第47普通科連隊・新隊員教育(広島)に一般2等陸士にて入隊。前期教育終了後、後期教育隊として第17普通科連隊・後期教育隊(山口)に配属。中隊配属も17連隊になり、一般曹候補生に進みましたが、4年で依願退職しました。

退職後は、バーテンダーになることを夢見て、2011年にホテルグランヴィア岡山(岡山)に再就職し、ホテルマンとしての第一歩の宴会サービスや宴会営業(外勤)として4年下積みをしていき、その後ザ・リッツ・カールトン大阪(大阪)に転職しました。

ただ、転職先でもバーテンダーは、未経験では担当させてもらえず、狭き門でした。ここでイタリアンのサービスマンとして2年間勤務し、レストランでのキャリアを優先しました。

そうしたところ、アマン東京(東京)でバーテンダー枠があるため転職、その後はバーテンダーとして、キャリアや資格を取得した後に、リゾートトラスト株式会社に転職し、東京ベイコート倶楽部ホテル&スパリゾートに勤務。

その後、ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜が新規開業するため、開業準備室を経験し、2020年9月23日開業。現在は同ホテルのBar-Chiefとして、勤務しています。

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駐屯地音楽隊として充実した自衛隊勤務

ーー自衛隊退職後の夢だったお仕事されているんですね。自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

濱さん:多くの自衛官が入隊する志望動機とは少し違った入隊動機です。高校で吹奏楽をしており、音楽が大好きでした。将来は音楽を仕事にしたいと漠然と思い描いていたところに、自衛隊で音楽科があることを知りました。入隊当初は、音楽科配属を希望していたのですが、当然、誰でも入れる訳ではなく、山口駐屯地(17連隊)に配属になり、駐屯地の音楽隊に入りました。

そのため、本職は、普通科連隊で、小銃小隊の有線無線通信士として、勤務をしていました。普通科で勤務しつつ、課業後に練習するという掛け持ちですね。

駐屯地音楽隊では、トロンボーンを担当していました。通常は課業後に練習をするのですが、駐屯地司令が理解ある人で、行事があれば、命令で課業中に練習もさせてもらったりしていましたね。

山口駐屯地の音楽隊は10人くらいで少ないため、正規の音楽隊の様にフル編成では出来ません。なので、地域行事がある時は、山口県警、山口消防隊、自衛隊の3つの組織が合同で、吹奏楽を警察、消防が担当し、我々は少人数で独自のビッグバンドスタイルを貫いていました。その他、自衛隊広報イベントや、地域密着型のコンサート活動にも対応してました。

また、広島にある第13音楽隊と合同練習することもあり、記念式典で合奏したことは、大変よい経験です。

米海兵隊との共同訓練の思い出

ーー自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

濱さん:本職の普通科の思い出は、FTXというアメリカの海兵隊との実働共同軍事訓練です。滋賀県にある饗庭野(あいばの)演習場で1ヶ月ほど海兵隊と訓練したのが、非常に思い出深いです。

訓練で感じたのは、米軍と自衛隊の文化の違いが如実に出ると感じました。海兵隊の人たちって精強なイメージですが、すぐ飽きちゃうんです。その点、自衛隊は直向きに頑張り、計画された任務をしっかりと全員遂行していました。

海兵隊の隊長さんが「少しは自衛隊を見習え!」って怒っていたのがすごい印象的ですね。私も中隊配属の頃は小隊長に常に叱咤激励されていましたが。

訓練後に若い、近い階級同士で飲んだり、話したりした際に海兵隊から聞かされたのは、軍隊は辛いものの、しっかり任期まで勤め上げるて帰国すると、海兵隊が斡旋して、すごいよい企業に就職できたり、大学へも入学させてくれるので、頑張る気概があると話していましたことも印象的ですね。

自衛隊は、任期満了金で比較的多くのお金をもらえますよね。それよりは、安定した会社に勤務できて、順調にキャリアを重ねた方がよいなって思います。ただ僕も若い時は、お金が良いと思っていましたが。

音楽隊での思い出もあります。退職を伝えたときに、辞めるなよと駐屯地音楽隊のメンバーや13音楽隊の方々から止められました。ただ、13音楽隊の方々の半端ではないスキルや演奏の上手さを見て、現実の厳しさを知り、お金をもらって、音楽をするとはこういうことかと現実の厳しさを知りました。

当然ながらレベルが違うんですよね。彼らは、1日楽器に触れて練習して、普通だとわからないレベルの精度でいわば、己との戦いで練習や調整をやっているんですよね。

現実を知ると、こんなにも違うのかという越えられない壁を正直実感し、理想と現実をすり合わせた結果、違う道で頑張ってみようと決心しました。

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ーー職業として音楽をやっていくことの厳しさですね。そうした背景が自衛隊退職の理由でしょうか。

濱さん:そうですね、現職との違いをまざまざと見せつけられて、職業として自衛隊をこの先やっていくことに限界を感じている中、他にやりたいことも見つけきれなかったのですが、そうしたところ、中隊で壮行会を開催していただき、2次会で小隊長にホテルのバーに連れてっていただいたんです。

そこで見たバーテンダーの接客や仕事、立ち振る舞いを見て、こんなに格好良く人をひきつける事ができる仕事があるのか!と興味をもったことがバーテンダーで仕事をしたいと思ったきっかけなんです。

再就職先に推薦状を出してくれた中隊長への思い

ーーバーテンダーを夢見られて転職するのですが、情報収集、スケジュール、準備等必要だったと思います。どのようなことをされましたか。

濱さん:バーテンダーになりたいという気持ちが強かったため、インターネットや本等でさまざま情報収集をしました。調べていく内にバーテンダーは資格がなくてもできるため、未経験からでも飛び込める職種でした。

当初は、街のバーで勤務も考えていたのですが、当時の小隊長や両親から街のバーで最初のキャリアから、キャリアアップしてくのは難しいぞと指摘を受け、キャリアをしっかり作るには、格式のあるホテルなら両親も安心するし、上司にも説明がしやすいと、地元岡山のホテルグランヴィアへ就職活動をしました。

面接を受けて、採用されるか不安でしたが、無事採用。就職先を一本に絞っていたので、当時はすごい嬉しかったですね。

ただ、後で知ったのですが、面接前に中隊長が僕の推薦状をホテルグランヴィアの人事宛に送ってもらっていたんです。その後お礼に行きたいと思っていた矢先に、東日本大震災の災害派遣に行かれて、中隊長へはその後まだ会えずじまいなんです。

なので、いつか中隊長に僕のカクテルをお出ししたいと思っていて、それも日々の仕事の目標にして頑張っています。

ーー感動的なエピソードです。上司にもこまめにしっかり相談しているんですね。今は、どのようなお仕事をされており、ご自身の今後のキャリアをお聞かせください。

濱さん:ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜のBar-Chiefとして、バーテンダー業務もしますが、主には部下の教育、指導やホテルバーテンダーとして、カクテルコンペティション競技技術の向上をしています。

また、管理者としては、バーの運営のみならず、ホール席を仕切ることやレストラン全体のサービス向上もミッションになっています。そのため、レストラン全体のオペレーションやマネジメントをしています。

今後のキャリアは、マネージャーを目指しています。マネージャーの職域は、レストランの売上、コストといった数値管理も求められますが、とくに売上に貢献する部門を成長さていきたいと思っています。

そのため、人材育成含め、各種マネジメント能力を高めていくつもりで、とくに辞めないように人を育てていきたいと思います。というのは、レストランやバーの仕事って体力勝負だったり、自己成長を感じられないことがあって、なんとなくしんどいから辞めたいという理由で退職する人が多いんです。

辞めたい理由が、成長を感じられないことや仕事の楽しさを知れないことが無いように、楽しいと思って1日の始まりを迎えてもらうような職場環境作りや、バーテンダーを憧れの職種としてより確立していきたいと考えています。

バーテンダーはヒトありきなので、AIにも置き換えられませんし、辞めた時にも資格をもっておけば、自分の価値として生かせる職種です。やりがいある仕事として理解してもらえるよう認知させていきたいです。

自衛隊でこそ学べ、経験できた能力とは

ーー濱さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、スキルや備えた方が良いスキル等ありましたら教えてください。

濱さん:不撓不屈の精神がベースにあります。どういう状況にあっても諦めない気持ちで、たとえ未経験でゼロの状態で外に出たとしても、自衛隊で培った精神力にて潰れないことは強みだと感じています。

陸上自衛隊を全体的に見ても、各種教育隊や陸曹教育隊、レンジャー等、とくに教育内容が外の世界でも通じる大事なことを教えてくれている気がします。例えば新隊員教育隊では仲間を見捨てない事を誰もが叩き込まれるはずです。

そして、陸曹教育隊の標語である、

『俺を見よ俺に続け』

これはリーダーシップとして、外の世界では主任や係長に特に大切な事でしょう。レンジャー教育隊は、訓練中は日常的に理不尽さを徹底的に与えたり、通常では不可能な任務付与により、まさに限界を超える訓練を受けます。この様な経験を積んでおけばそれ自体が個人のブランドになります。

また、人間関係を作ることも強さの一つだと考えます。民間企業に出てみて思うのは、自衛隊の営内生活で培った人間関係や信頼関係を築き上げる能力は、普通に生活する上では、なかなか身につけることが難しいと感じています。

自衛隊だと当たり前に行っていた先輩への気遣いや後輩への適切な指導、空気を読む力といった状況判断能力やコミュニケーション能力は強みだと感じています。

私自身も、営内生活の経験は、自分を作る上で大変良い経験でしたし、常に全体を気にして、先を読み、先輩が何をして欲しいかを把握して、行動していました。

そのような指示を待つだけにならず、自ら考えて行動することも自衛隊で学びました。

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再就職、転職する自衛官に向けてのアドバイス

慣れないうちは上司から沢山フィードバックを受けること

ーーこれから再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

濱さん:とにかく恐れないで欲しいと言う事。民間企業では自分から取り組んだ結果、失敗しても怒られたことは基本的にないと思います。

ただ、自衛隊だと良かれと思ってやると怒られることがあります。これは先程の営内の話と相反することなのですが、自衛官の多くは、言われるまでやらない指示待ち人間が多いと思います。

民間企業はそれでは評価されないですよね。自分で価値を作る人が評価されますので、自分で考え行動し、価値を作れない人や何もやらない人は価値がないと評価されるように考えた方がよいと思います。

とはいえ、好き勝手に自分でやることが良いという訳ではなく、新しいことを考えたり、よりよいことをしたいと考えた時には、上長へ相談をして提案をするような人であって欲しいと思います。この行動力はホテル業界では特に評価されます。

そういった上司との関係作りで申し上げますと、自己成長のためにも上司との関係作りは非常に重要です。その一つにフィードバックがあります。自分を客観視することは必要である一方、難しいです。そのため、上司からできるだけ多くフィードバックを受けるようにした方がよいと思います。「自分には何が足りていないのか?上司から自分はどう言う風に見えているのか?」です。

僕は自衛隊や民間企業の転職先も、見て覚える世界でした。そのため、上司に自分に何ができて、何が求められているのか日々評価をもらうくらいの頻度でフィードバックを貰っていました。

当然、全然できていないといった辛い評価や怒られたりと評価を受けることは嫌なこともありますが、人から評価をしてもらい、自分のできていないとことを一つひとつ潰すと日々成長につながっている実感が生まれます。
勝手に脳が意識していますね、前にこういう事言われたなぁ〜と思い出す事など。

また、セカンドキャリアは、一般社会では中途採用です。人より多く早く成長が求められますので、そうした形で上司から多くフィードバックを受けて、求められる人間に早く成長することが、若い内は少なくともよいと感じます。

最後にとくに「士」の方々へお伝えしたいのが、一般社会は、知らない世界が沢山あると思います。なので、給料、休み、労働時間等細かいメリット・デメリットについてもしっかり事前に調査する事も重要です。

外に出てみてから思っていた現実とは違うと言う事は必ずあります。そこで、簡単に辞めてしまっては送り出してくれた自衛隊に申し訳が立ちません。自衛隊は公務員です。なので、自衛隊勤務の環境がいかにありがたいかと言う話は良く聞きますし、私もそう思う所はあります。

とくに自衛隊を辞めることによるデメリットを意識して、セカンドキャリアを考えることも大切だと思います。デメリットさえも超えていける情熱を持った方々は必ず充実したセカンドキャリアを歩めると思います。

ありがとうございました。濱さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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