元自衛官インタビュー

作戦立案はコンサルと同じ?自衛官が民間企業で活躍する理由(後)

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元自衛官キャリアインタビュー Vol.6

前回記事から続き、後半は、自衛隊で培った素質、能力を活かして、再就職した企業でどのように活躍されているのかをお伺いしました。

防衛省を中からも外からも見てきたキャリアを、活かす

――自衛隊も含めると、3回も転職されているわけですが、ご自身で改めて振り返ってみて、転職がうまくいったその秘訣はなんだったと思われますか?
吉田さん:先ほどの話と重複してしまいますが、やっぱり自己分析をしっかりとして、軸を決めることだったと思います。私は、自衛隊も含めて3回転職をしていますが、割とすんなり再就職先を決めることが出来ました。それは「空や宇宙に関する仕事がしたい」という軸がブレていないからだったと思います。

短期で転職をする人材は面接ではやや評価が落ちることもありますが、私の場合は、軸があったからこそ、今までの経歴や比較的短期で仕事を辞めたことに対する説明がしっかり出来、面接官を納得させることができました。言い換えれば、面接は人生の一貫性を見られているとも言えます。

――「自分の軸」として、特に意識したほうが良いのはどの点でしょうか?

吉田さん:たとえば、自衛隊に入った動機などは、しっかりと答えられるようにしましょう。新卒で自衛隊に入った人や高卒でなんとなく自衛隊に入った人の中には、「自衛隊は自分の人生の軸のなかでどういう存在なのか」をきちんと認識していない人が多いです。

でも、認識していないだけで、本当はきちんと軸はある。それを自分で言語化できていないからこそ、面接などでうまく伝えることができず、「この人は軸がぶれている人だな」と思われてしまい、面接に落ちてしまう。それは本当にもったいないです。

また、しっかりとした自己分析は転職活動をする際の土台になります。土台がしっかりすれば、「自分の軸」もブレません。軸がブレなければ、一貫性も出てきて、話す内容に説得力が生まれ、内定につながります。

――現在のお仕事は外資系メーカーとのことですが、どのようなお仕事をされているんでしょうか?

吉田さん:ロケットや防衛装備品の部品を、大手重工会社に売る仕事をしています。仕事柄あまり具体的には多くを語れないのですが、大型の機械に必要な部品です。職種は、営業職ですが、ときに技術的なことを直接お客様とお話したり、海外とやり取りして輸出許可を取ったりなど、お客様に寄り添ってサポートをするような仕事です。

新卒で最初に就職した会社も、防衛省と付き合いがあった会社だったため、防衛省を外からも中からも見てきたからこそわかる仕事の流れや解決方法など、今までのキャリアを活かして働いています。このように中も外も知っていることは、価値や強みが発揮できる分野だと感じています。こうした自分の力を活かして、今後は、今の会社に限らず、資格取得や経験を積んで航空宇宙産業を軸にキャリアアップしていきたいと考えています。

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自衛官のコミュニケーションや作戦立案は、ビジネスにも役に立つ

――吉田さんが考える、自衛官だからこそ民間企業で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

吉田さん:コミュニケーションの方法や作戦立案や幕僚活動のスキルは民間でも活用出来るのではないかと考えます。航空自衛隊は運用している装備品の特性上、時間がないため特に簡潔明瞭に話すことを求められますが、このスキルは、自衛隊以外でも大いに活用出来ると思います。

これらの能力というのは民間風に言い換えると「コンサルタント能力」です。ただ言われたことだけを行うのではなく「私はこの状況ならA案を推します。理由は○○だからです」とシンプルに理由を述べて上司のサポートをしつつ、意思決定に必要な情報のみを述べる。場合によっては、出過ぎないことも必要です。上官の意思決定をサポートしつつ、出過ぎないようにする自衛隊での幕僚活動でのスキルは民間でも十分に活かせます。

――陸自では、作戦立案というと、「任務分析→状況及び行動方針の決定→彼我の行動方針列挙と比較→要因分析→意思決定」という流れが一般的ですが、航空自衛隊のではどのような特色があるのでしょうか。

吉田さん: 基本的な流れは変わらないと思いますが、空自はこの流れの中に臨機応変さや各級指揮官の判断が加わるイメージですかね。ミサイルや戦闘機相手に対し、その度に上級部隊に確認取ってたら間に合わないこともありえますので、事後報告による軌道修正をする必要はありますが、状況次第では独自に判断する必要があります。

ある程度そういう事態が起こった場合の対処法は想定されてはいます。例えば、上官の意図や考え方を事前にしっかりと共有しておかないと、通信が確保されていない時に指示待ちでは部下達が動けない状態になってしまいます。その為、演習時は、上級部隊と通信途絶してしまう状況付与がされたりします。

私も一回、この状況を経験したことがあります。その際は、たまたま中隊本部が壊滅した場合は自分の小隊本部が中隊本部に格上げされるという決まりだったため、3尉の自分が1尉の率いる小隊を一時的に指揮してました。

その際に重要だなと思ったのは、事前の取り決めや手順の設定や把握に加えて、「上の立場の人間の視点」です。空自の幹部候補生学校では「自ら考え判断し、行動する航空士官の育成」が教育理念に掲げられており、いつ、何時自分が指揮を執らなければならない状況になってもスムーズに指揮が出来るように、常に「自分が中隊長ならどうしようか」「自分が司令官ならどの様にこの基地を守るか?」「最悪何人の小隊員を犠牲にするか?」ということを考えていました。

通常業務で自ら考え判断し行動したら怒られる可能性もありますが、上官の視点で物事を考えるというこのマインドは民間企業でも通用するんじゃないかと思います。

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――航空自衛隊だからこそ培った、ご自身の強みがあれば教えてください。

吉田さん: まず、航空自衛隊の場合、航空機を主軸で物事を考え、基準にしているので、コミュケーションも可能な限り短く伝え、理解することを徹底させられます。たとえば、飛行中は1秒で何百メートルも飛ぶため、話が長い人だと意思伝達ができないです。そのため、簡潔で迅速なコミュニケーションを取れるという点は、自分にとっての強みになると思っています。具体的には「結論から話す」「結論しか話さない」などですね。

ただ、これが意外と大変なんです。最初の頃は、教官からのメッセージを理解するのも難しかった。また、普段はあまり一緒に飛ばないパイロットと組む場合は、なかなかお互いを理解し合うのが大変でした。

――どういう経験から、そうした強みが育てられたのでしょうか?

吉田さん: これは、着陸の訓練の時のエピソードです。飛行機って、着陸する際は、通常向かい風の状態で着陸するんです。向かい風であればあるほど、飛行機の機体が、ゆっくり安定して着陸できるためです。

ただ、追い風で着陸しなければならない時も当然あるので、その場合は意識しないと、風に押されて滑走路に降り立つポイントが奥にズレてしまうことがあります。この着陸時の目標ポイントを「エイミングポイント」と言いますが、ある訓練時も追い風でした。

そして教官から「エイミングポイント奥!」と指示され、エイミングポイントを奥にずらして飛行していたところ、ずっと「エイミングポイント奥!」と指示されてましたが、さらに「エイミングポイント奥!」と指示されるものだから、更にエイミングポイントを奥にずらして……、という作業を3回くらい繰り返したら、案の定、エイミングポイントが、滑走路の向こう端からはみ出てしまったんです。

その後、しびれを切らした教官に操縦を代わられて無事に降りてきたのですが、ブリーフィングで「『追い風だから、エイミングポイントが奥になるから、手前に目標をずらせ!』とあれほど言ったろ!! なのにお前は、どんどんエイミングポイントを奥にズらしていきやがって……」と怒られました。

私は「奥」と言われたので、てっきり「もっと奥に着陸しろ」という意味だと思っていたのですが、教官の意図としては全く逆。「追い風なので、奥にズレるので、気を付けろ」という意味で指示を出していたのでした。この体験を通じて、「あぁ、短い単語でも相手が勘違いすることもある。相手にわかるように指示をしないといけないな」と痛感しました。

――吉田さんは区隊長などリーダー的な立ち位置に立つことも多かったと思うのですが、当時学んだことで印象深かったものはありますか?

吉田さん:「指示をする際は、きちんと自分の意図を伝える」ということです。これは、区隊長の時のエピソードですが、体育の授業をするために舎前に学生を集めて運動場まで引率することがありました。その際、集合時間の指示で失敗してしまったことがあります。

この話をする前に、簡単に空自の時間の考え方について説明させてください。自衛官は、陸・海だと、集合時間は通常「5分前行動」が基本だと思います。

でも、空自はそうではなく、「定時定点必達」という考え方を採用しています。これは、5分前でも3分前でもなく、指定した時間ピッタリに行動することを求められるというもの。

なぜ、こうした考え方を採用しているかというと、それは空自が使用している装備品に関係しているんですね。空自が扱うのは、ミサイルや戦闘機なので、秒単位で時間管理する必要があります。

だから、自分は気を利かせて5分前に集合した場所が、実は空爆するポイントであるような可能性も十分にある。だからこそ、空自では「定時定点必達」を採用しているのです。

私自身、操縦士時代に、習志野駐屯地でパラシュート降下訓練を2週間程した際、集合時間1分前に移動開始をしたら、陸上自衛官に怒られた経験があります。

先ほどの話に戻ると、術科学校の学生は人数が多いので、一気に行くと混雑が予想されます。そこで、隣の区隊の集合時間から5分ずらした時間を集合時間として区隊員に下達しました。

ただ、その際に「5分前行動は絶対にするな。集合時間1分前くらい前に動き出して集合時間ピッタリに集合しろ。理由は混雑するからだ」と完結に理由も伝えればよかったのですが、簡潔明瞭な命令を意識して、私の意図を伝えなかったんですね。

すると、命令の意図を汲み取れきれなかった学生達が他区隊の学生達に流せれるような形で、集合時間の7分くらい前に学生が全員舎前に集合してしまい他区隊の学生と時間が被ってしまって、大混雑を引き起こした事がありました。

もちろん学生達にはこの後定時定点必達の精神を叩き込みましたが、私の意図を命令下達時点でしっかりと伝えておけば、防げたことだったと反省しました。それ以降は同様のミスを防ぐように、何かの指示をするときは、自分の意図はしっかり伝えることを徹底するようにしています。

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再就職、転職をする自衛官に向けてのアドバイス

計画性をもった周到な準備をしましょう

――最後に、このコロナ禍だからこそ、自衛官から他業種に転職する際、意識するべきことはありますか?

吉田さん:自衛官を退官する前には「もしこの会社を退職したら、次はどうするのか」という進路をある程度決めておきましょう。方向性が決まる前に退職を申し出てしまうと、上官も上司に報告しづらくなります。

申し出た時点で相手を納得させるような方向性が提示できれば、上官の理解も得やすくなります。

一番良いのは次の進路が決まっていることですが、在籍中は転職活動ができないこともあり、なかなか次の進路を決めることは難しいかもしれません。ただ、若い年代の人であれば、職業訓練校や専門学校、大学など、仕事ではなく改めて教育を受けるという選択肢もあります。

今はコロナの影響でインターネットを使った情報収集が当たり前となり、自由な時間を取りづらい曹士や地方の基地や駐屯地勤務者でも、私のように在職中に再就職の情報を収集することができるようになってきました。

辞めること焦り、次のキャリアの方向性が定まっていないのに退職を申し出て、転職活動に影響が出ないようにして、準備をして欲しいと思います。

ありがとうございました。吉田さんへメンターとしてコミュニティで直接話を伺えますので、ご希望の方は下記よりお申し込みください。

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