元自衛官インタビュー

自衛隊から企業総務としての働き方、キャリア形成の仕方

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元自衛官キャリアインタビュー Vol.18

プロフィール
加藤 聡さん
現職:東証一部上場企業 総務
自衛隊在職時最終役職:航空自衛隊1等空尉

経歴

ーー本日はお忙しい中、退職予定自衛官、元自衛官のキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、加藤さんの経歴を教えていただけますか。

加藤さん:防大を卒業後、航空自衛隊に配属。航空機の整備幹部として、約7年勤めた後、30歳で退職しました。

それ以後、主にIT業界で、営業を約4年、総務を約4年経験し、計8年間で6社経験、スタートアップ企業から上場企業と、ステージの違う会社で勤務した経験があります。今は、上場企業の総務で勤務しています。

ーーいろいろな会社を経験されていますね。まず自衛隊に入隊された背景と在職時の職務内容を教えていただけますでしょうか。

加藤さん:中学生1年の時に映画の「紅の豚」を見て、小型飛行機で空を自由に飛ぶ姿に自分も同じように空を飛びたいなと思ったことがきっかけです。また、同時期にロック岩崎さんというアクロバット飛行をしている人のドキュメンタリー番組を見て、その人が航空自衛隊戦闘機出身のパイロットであったため、私も航空自衛隊を目指そうと思いました。

そして、防衛大学校に入り、航空要員にはなりましたが、残念ながらパイロットにはなれなかったものの、航空機整備幹部となりました。

幹部自衛官として、現場に出てからの職務内容は、部下整備員や他整備部門と調整し、整備しながら、パイロット側が必要な機体を準備しパイロットに提供する業務になります。実際に機体に触ることはなく、調整役として現場を支えるという立場で仕事をしています。

航空自衛隊部隊改編経験により鍛えられた調整力

ーー現場を支えるお仕事だったのですね。自衛隊在職中の思い出・エピソードを教えていただけますか。

加藤さん:思い出深いエピソードは、2つあります。

ひとつめは、部隊改編の業務に携われたことです。当時所属部隊では、旧式のF4戦闘機を配備しておりました。その中、F15戦闘機の部隊に移すという部隊改編事業がありました。私はエンジン小隊長として、新しい事務所の設計やテストスタンド(エンジン試運転施設)設計など大きな事業に携われました。

部隊改編ってすごい大変なんです。仕様の違う航空機を扱うことになるため、専用の格納庫を作ったり、およそ2年間かけてOJTで部隊整備員も教育しますが、そうした教育計画を行いました。

関係機関も多く、自分一人で決められないことも多々あります。その場合は、幹部が調整しますので、モノ調達や予算等、通常のフローで申請をしても時間が掛かりすぎて間に合わないことは、所管の補給処に直接出向いて調整したり、空幕の担当者へ直接連絡したりと、対応も大変でしたが、プロジェクトを立ち上げ、円滑に遂行するための要素を幅広く勉強できました。

ふたつめは、官製談合による影響で什器備品調達が滞ってしまう可能性があったプロジェクトにおいて、それを回避し成功を収められたことです。

当時、所属基地にて新しい整備格を作る事業を携わっていました。半年後には新しい所に移るというタイミングで、ある補給処が官製談合で叩かれ全国的に調達業務が停止。什器備品が入ってこない可能性があるという事態に陥りました。

とはいえ、移ることは決まっており、止めることはできません。粘り強く交渉をして、情報収集をしていたところ、必要性を明確に示せることが出来れば例外的に認める連絡がありました。

調達はほぼ不可能で移転にも影響が出てしまうというぎりぎりのタイミングで、本部から譲歩があり、部下3名と約3日間、夜中まで必要性を示す資料を作成し、要望書を提出しました。結果、数百あった事業のうち、私が係わった事業含むいくつかは例外として認められ、業務に支障なく移転出来ました。

まさにギリギリのラインだったため、部下と達成を喜びました。業務が滞っていれば、現場が1年は動かずに全体の任務にも影響を及ぼすところでしたが、部隊改編の粘り強い交渉経験を生かした調整と部下の高い熱量、やる気が良い結果を生み出すことができたと思います。

ーー転職に関してですが、なぜ自衛隊から民間企業へ転職されようと思ったのでしょうか。

加藤さん:2つ理由があり、ひとつは、いろいろな人と関わり、多面的な仕事をしたいためでした。防大時代に松下幸之助や稲盛和夫の本と出会い、それから経営者への憧れが強くなりました。防大は教育として大変素晴らしいものがある一方、在籍した人ならわかりますが、理不尽に耐えることが美化され、理不尽な指導をする部分があります。

人を育てることを目的とした学校でありながら、そうしたギャップがあることへ人材育成への関与やあり方に大変関心を持つようになりました。

とくに防大2年時に読んだ「君に志はあるか 松下政経塾塾長問答集」(PHP文庫)はリーダーシップに関して学ばされることが多かったです。そうした視点で、自衛隊にないものが民間企業にあるだろうという考えがあり、自衛隊を経験して、いつかは人材育成への関与をテーマに外の世界へ出ようと決意しました。

ふたつめは、転勤が多かったことです。子どもが生まれ、将来を考えた時に、子どもにとって地元と言える場所がなくなってしまうのではないか、単身赴任で子どもへの教育が出来なくなってしまうのでないかと大きな不安にかられ、自分にとって父親の存在が大きかったことから、子どもの今後の環境を考えて決意しました。

ーー転勤が多いことで転職を考えられる方は多いですよね。転職時の就職情報収集、スケジュール、準備等必要だったと思います。どのような準備をされましたか。

加藤さん:何かを具体的に準備したことはありません。自衛隊在職中からインターネットを使って自分がやりたいことやそれに関する情報収集を行っていました。

当時はブログが流行っており、私もブログを書く中でインターネット業界へ魅力を感じている時、将来的に関心がある「起業家支援」や「起業家育成」検索で、出てきたインターネット業界の会社へアプローチし、内定を頂きました。

そのため、就職援護はもちろんですが、エージェントも使わずに自分で開拓しました。

企業総務でヒトや組織作りへ関与するやりがい

ーーご自身で開拓されたんですね。現在の会社では、どのようなお仕事をされていますか。ご自身の今後のキャリアをお聞かせください。

加藤さん:現在は、上場企業で総務をしています。メイン業務は、社内規程の整備、防災関係、携帯等のモバイル通信端末管理を行うとともに、最近は、株主優待企画、株主総会運営等、IRに関わる仕事もさせてもらっています。

今後のキャリアは組織作りに関与したいと考えています。もともと自衛隊退職もヒトに関わることだったため、「強い組織」の作り方やそうしたことに関わることがテーマとしてあります。

「強い組織」の作り方を知るようなポジションやキャリアを進んでいきたいと考えていますし、いまは総務という立場で企業戦略や情報に関わる立場でもあるため、戦略から組織ができるという観点から、現在の組織を作るれるポジションにやりがいを感じています。

自衛隊だったことで活用できるマインド、スキルとは

ーー加藤さんが考える、自衛官だった事で活用できる能力、マインド、スキル等ありましたら教えてください。

加藤さん:「コミュニケーション能力」と「ストレス耐性力」だと思います。自衛隊は非常に泥臭い人間関係の中で勤務するため、コミュニケーション能力が求められる環境であり、僕自身も在職中大変磨かれました。もちろん企業でも通用しています。

TPOに合わせたコミュニケーションって大事じゃないですか。盛り上がる時は盛り上がり、引き締めてみんなでやるときはやることや同じ方向性を見ることによって、チームワークも活かせますし、結果として組織目標の達成もできるわけです。

また、心身共に自衛官は鍛えられますので、ストレス耐性も活用できますよね。

民間企業でも当然、ストレスを感じることは多く、ストレス耐性が求められますので、そうした対応ももちろんですが、ストレス耐性があることで、やりぬく力ができると感じます。今の仕事も粘り強い交渉が必要なのですが、事業に必要だとなれば、少し空気が読めなくてもしっかり社内調整をしてやり切っています。

上司からも他の人だと途中でだめそうだと諦めてしまう人が多い中、調整力や粘り強さでやりきる姿勢は大変評価いただいています。

再就職、転職をする自衛官に向けてのアドバイス

ーーやり切る力重要ですね。では最後にこれから転職、再就職をする人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

加藤さん:目標を持つことの重要性でしょうか。とくに大きくかつある程度中長期的に目標を持ちましょうとお伝えしたいです。目標は大きければ大きいほど、まだ、長期的な目標を立てるほど、失敗の影響は小さくなり、一つの失敗でクヨクヨすることがなくなります。

私の場合、転職の6社中4社はIT企業でしたので、IT企業経験の知見は比較的広がりましたし、その知見を生かした仕事が今も出来ていると思います。

ただ順風満帆かというとそうではなく、転職した最初の1社は、SEOの会社でした。自分自身もブログを運営したため、入社当初は非常にやりがいがある仕事でした。

ただ、その後Googleが単純なSEO排除の流れとその後の会社対応の不信感があったり、若い会社だったこともあるためか、お客さんへの対応等にも不信感もあり転職をしました。

自衛隊は規律をしっかりと守った勤務であるし、育てる組織になりますが、民間企業は必ずしも教育体系が整っていないケースもあるため、入社前に教育体制や人を育てられる組織かどうかの確認は必要だと思います。そうすると大手企業やある程度歴史がある、年齢層に幅が比較的ある企業かなと思っています。

また、転職を繰り返してしまい色々な失敗を経験する反面、自分が描いている目標を実現するために必要と考えている経験が出来ています。営業の経験、マーケティングの経験、会社を維持成長させるためのバックオフィスの経験、スタートアップの会社から大企業で勤務する経験など着実に一歩一歩目標に進んでいます。

民間の世界は戦国時代のように非常に厳しい世界になります。その中で生き抜くためにも見失わない目標を見つけるようにしてください。

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